「本質力」についての私の理解と考え方(3)

★以下、
「本質力」についての私の理解と考え方(2)
の続きです。

私が空手を始めたのは中学2年の6月。
14歳になったばかりのタイミングでした。

ただ、中学でバスケ部に所属していたこともあり、
受験勉強への影響を心配した母親と

「空手の稽古は中学時代は週1回まで。」

という約束をしていました。

晴れて高校生になり、ようやく「本格的に」空手
に取り組み始めて間もない頃、道場の支部長の
先生から、その後の人生観に大きな影響を与える
ことになる、ある「教え」を受けました。

その時私は空手の「移動基本」という稽古を
行っていました。

これは、腰を低く落とし、前後に移動しながら
全力で技を出し続ける基本稽古で、当時、空手
の稽古の中でも一番キツいと感じていた稽古
メニューでした。

運動的には、中距離のダッシュを繰り返すような
内容で、インターバルの時間には座り込んでしま
うこともしばしば。もしも稽古前の食事のタイミン
グや量を少しでも間違えようものなら、この稽古
の段階でほぼ確実にトイレに駆け込み嘔吐する
羽目に陥る、といった稽古でした。

さらにそんな肉体的なハードさに加え、内容の
「地味さ」が更に、この稽古の「キツさ」を高める
要因となっていました。

当時の私は、映画のブルースリーやジャッキー
チェンのように強くなりたい、カッコよく相手を
打ち負かせるようになりたいと思っていたのです
が、延々繰り返される基本稽古は、映画のアクシ
ョンシーンで見るような華麗な動きとは似ても
似つかぬ地味で、それがどのように生かされるの
かもよくわからない技の繰り返し稽古です。

そんな気持ちを読み取ったのか、先生は

「今は退屈に思えるかもしれないけど、しっかり
基本稽古をやるんだぞ。早く組手をやりたいかも
知れないけど、今のうちにしっかりと基本を積み
重ねていって、それから組手をやった方が後から
グーンと伸びるから・・・」

と言いながら、急カーブを描いて上昇する折れ線
グラフのようなラインを手で示しました。

「組手」というのは前述の通り、相手と組んで攻防
を学ぶ稽古ですが、ブルースリーのアクションシー
ン(相手との闘いのシーン)のような自由な攻防の
やりとりを行う稽古を「自由組手」といいます。
ここで先生の言われた「組手」とは「自由組手」の
ことを指しますが、空手修行者が抱く「強くなりた
い」という欲求はとりあえず、この「自由組手」が
強くなることによって満たされます。

その自由組手で強くなるために、最初から自由
組手の練習そのものをたくさん行うのではなく、
それとは一見無関係のようにも見える「基本」の
稽古に注力をする。すると後に「グーンと」伸び、
最初から自由組手ばかりをやっていた者よりも
結果として自由組手が強くなる

・・・ これは、当時高校1年生だった私がおそらく
人生で初めて触れる発想・考え方でした。

でも、先生の言われた

「あとからグーンと伸びる」

という言葉に何とも言えない魅力を感じるように
なり、その後はこの基本中心の稽古に益々意欲
をもって取り組むようになりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

高校には空手部がなかったため、道場で週3回、
こうした基本中心の稽古を積み重ねていきました。

先ほど、

高校生になって「本格的に」空手に取り組み
はじめた

・・・と、「本格的に」をカッコつきで表記しました。

今でも高校時代を思い出すと、頭の中はいつも
空手のことでいっぱいだった印象があるのですが、
でも実際に行っていた稽古の量は1回2時間の
稽古を週3回。そして、自由組手の試合に出場
した回数については3年間で5回、
たったそれだけだったのです。

一方その頃、「競技派伝統空手」に取り組む高校
生のトップ選手達がどんな練習をどれくらいしてい
たかと言えば、

1日8時間の練習をほぼ年中無休で行い、練習
試合も含め年間200試合を消化していた、と
伝えられています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学に入ると、武道派伝統空手のクラブに入部し、
同じ体系に基づいた鍛錬を積む大学空手部が
集まるリーグ戦に出場するようになりました。

「基本」「型」「組手」の稽古を通して「地力」を養っ
てきた大学生の技は強く鋭いもので、このリーグ
戦はとても緊張感に満ちた激しい大会でした。

相手の突きをまともに顔に受けた選手が昏倒して
救急車で運ばれる、といったシーンもしばしば。

時にはそれがあまりに立て続けに起こるために
救急車の出動が間に合わず、試合コートの横に
「搬送待ち」の選手が5人くらい横たわっている
中で試合を行う・・・というようなこともありました。

私は有難いことに1年生の時から大学の代表選手
として試合に出場させていただいていましたが、
毎回決死の覚悟でこの殺伐とした試合に臨んで
いたのを覚えています。

ただ、大学時代も引き続き、基本中心の稽古を
積み重ねていく中で少しずつ地力が養われ、4年
生に上がった頃には、この大会にも自信をもって、
比較的静かな心境で臨めるようになりました。

学生時代は結局、個人として記録に残るような
試合結果を残すことはできませんでしたが、日本
武道館で行われた大学4年最後の試合で、その年
の全日本学生選手権でベスト8に入賞(翌年は
優勝)した選手とほぼ互角に渡り合うなど、自分
の実力が潜在的にはかなり充実してきていることを
実感できるようにはなりました。

(第3回 了)

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